W 絵にあらわして見ること  〜眼福と符・絵馬・札・絵
 
 
 ところで、疱瘡という病や疱瘡神には、なにか赤いものがまとわりついていたようです。
 たとえば、天保6年(1835)4月14日、兵庫県姫路から岡山県津山までの道のりをしるす、古河藩家老鷹見泉石の日記『乙未旅日記 三』には、次のようにあります。
「疱瘡神、真木二本を地ニ打込、縄張締ニして赤白帛を下る。大砂村なり。」(『鷹見泉石日記 第二巻』)
よほどこの疱瘡神の赤白の幣帛(しめなわにつける紙のようなもの)が気になったのでしょう。図まで書き込んでいます。疱瘡に赤い色はつきものだったのです。
赤いものは、疱瘡を除ける力があると信じられていたのです。人々は、疱瘡にかかると赤い物を身につけたり、贈答品として贈ったりしました。また、疱瘡神をまつる棚を設置して赤い御幣や赤い餅などを供物として供え、疱瘡絵とよばれる紅刷り絵を貼って疱瘡からの快復を願ったのです。ここで紹介しようとする疱瘡絵には、疱瘡を軽くしようとする祈りをこめた歌や、疱瘡にかかった子どもの快復を願って玩具などが描かれています。
 このような「赤」に象徴されるもののみが、疱瘡をはじめ疫病に効果があるという考えのほかに、不思議なえたいの知れない珍しい動物にも、霊力を認めていたようです。古くからこれを霊獣と呼んで、人々は御利益を仰ぐのでした。江戸時代には、海外からいろいろな種類の動物が渡来してきて見世物となりました。見世物自体にも効果があったのでしょうが、それを絵にあらわしたものを見るだけでも病魔から逃れることができると信じられていたのです。
 
 
「鴻巣の赤物 鯛車」
 
 
埼玉県立民俗文化センター
 
鴻巣の赤物とは、現在の埼玉県鴻巣市でつくられる疱瘡玩具をさしていう。かつては、疱瘡のなぐさみや、快復の祈願をこめて、このような玩具が多数つくられていたのである。赤物は、張り子とは違い、桐のおがくずを原料としている。これを糊(正麩糊)で固めて赤い色で彩色するのである。この赤物は、江戸時代にはすでに制作がはじまっており、明治時代には、200種類以上も作られて、会津や長野など各地へ卸されていた。こんにち見ることのできる会津若松の会津天神や、長野善光寺の布引き牛などの郷土玩具も、鴻巣でつくられていた赤物のひとつである。
  
  
 
 
  @赤い呪術
  A疾病とまじない
   ▽絵馬に託した祈り
   ▽身をまもる符
  B動物見世物絵の力
 
 
■おもな展示資料
 ・「鴻巣の赤物」(埼玉県立民俗文化センター)
 ・「疱瘡絵」(国立歴史民俗博物館 木戸家史料)
 ・「秘符」(雀神社)
 ・「常武両毛絵馬図集」(古河歴史博物館)
 ・「人魚図」(川添裕氏所蔵)
 ・「海獣」(国立歴史民俗博物館 見世物絵コレクション)
  ほか
 
 
T 病を見るまなざし  U 疫神よ去れ  V 民間医療vs西洋医学
 
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